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「美味しいよ。
だけど俺は、千夏から比べたら
いい歳だからさ…
もう少しだけ
塩分控えめがいいかな?」
その言葉に千夏は
唇を噛みしめながら
小さく頷く。
しかし無言のまま彼女は
早く次の料理に手をつけろとでも
言わんばかりの眼力を俺に
送っていて。
若干震える箸で、
メインの唐揚げをつかんで
そのまま口に放り込んだ。
途端に口中に広がった味に
心の中で絶叫する。
にっ…苦いっ!
けれど…
やっぱり千夏はじーっと
俺を観察したまま動かない。
「…香ばしい唐揚げだね。
でも、もう少し早めに油から
取り出してくれた方が…
俺…歯が弱いから」
「虫歯なの?」
不思議そうに首を傾げた千夏に
引きつる笑顔で頷いた。
ちなみに俺は、
虫歯は一本も、ない。
結局茹ですぎた菜の花の
おひたしと、やっぱり
繋がっていて
やたら厚くて長い沢庵で
口直ししつつ、
何とか食事を進めていると
ようやく千夏も箸を持った。
味噌汁を飲んだ後も
唐揚げを食べた後も
無表情で無言を貫く千夏に
俺も無言のまま
黙々と食事を続ける。
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