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夏の気配が薄らぎ始めた9月の初旬、真っ赤な夕焼けに照らされた海岸に、女性の遺体があがった。
一週間前、サーフィンの最中波にさらわれ、行方不明になっていた25歳の女性であると思われ、どこにでもある水難事故の一つとして片付けられようとしていた。
現場検証にあたっていた警部のもとへ、この夏配属されたばかりの若い刑事が顔をしかめながら歩いてきた。
「警部、鑑識からの結果が出ました。腐敗の状況や衣服などから、例の女性に間違いないようです」
「そうか。まだ若いのにかわいそうにな」
ため息をもらす警部の横で、刑事は眉間に寄せたしわをとこうとしない。
警部は慣れない状況に困惑しているのかと思い、声をかけた。
「俺も始めの頃は何日も引きずったよ。今の気持ちを忘れない事だな。仏への弔いを忘れちゃ、刑事どころか人間も失格だ」
「違うんです。一つ不思議な証言を得まして」
そう言って振り返る刑事の視線の先には、海を見つめて呆然とたたずむ男の姿がある。
「不思議な証言?」
「はい。あそこに立っている男性が、昨晩彼女に会ったというのです」
「会った? どこで」
「この海岸でです」
「そんなバカな。一日ではこうはならんだろう」
そう言って、警部は足元のブルーシートに目を落とした。
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