事実はどこに。

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悲しいことだが、死体現場の立ち会いは、数をこなすうちにある程度は慣れてしまう。しかし、溺死体に関してはいつまでたっても遠ざけたいものであった。 皮膚に水分が浸透し、ふやけて膨張する。 水中からの細菌の侵入で腐敗も早く、皮膚は離脱して真皮が露出する。 頭皮は剥がれ落ち髪は抜け、一見しただけでは男性か女性の区別も難しい。 「あの男は誰だ?」 「遺体の……彼女の恋人らしいです」 「付き合って長いのか?」 「付き合い始めてちょうど一年目が行方不明になった日との事で……。その日、プロポーズする予定だったらしいのですが、結局いえずじまいで…この結果に」 「気が動転して、幻覚でも見たんだろう」 「それが……」 「なんだ。まだ何かあるのか?」 「昨晩、渡したというのです」 「何を?」 「婚約指輪です」 刑事がブルーシートをめくる。 水着姿の女性の遺体は、水ぶくれのように膨れ上がった白い皮膚と、めくれ上がった赤い真皮がまだらになっており、この上なく気分を憂欝にさせる。 「……!」 警部は遺体の左手薬指を見て言葉を失った。 確かに指輪がはめてある。 しかし、それ以上に薬指の綺麗さが目についた。 その部分だけ、まるで別の生き物であるかのような違和感を感じた。 〔水の事故には、くれぐれもお気を付けください〕
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