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「もちろん上総のことは...好きなんだけど、この気持ち全部を上総には上げられない」
「はぁ!?」
風呂場だからほんとによく響く。
全部上げられないって、どういうことだよ。
なに?
堂々と浮気宣言かなんかですか?
「上総の方が想ってる気持ちは大きいんだけど、その...昔にね、約束した人がいるの。二十歳になったら迎えに来るって言って、今もまだ来てくれてない人なんだけど」
「え...」
「あ、本当に来るとは思ってないわよ。ただ...かーくんへの思いが捨てきれないの。こんなの上総に失礼だって十分頭では分かってるもりなんだけども」
上総にちゃんと伝えておかないととフェアじゃないでしょう?
嫌なら拒絶してもらって構わない、と伝える明子の瞳は泣きそうなのに強い光を灯していた。
とりあえず振られなかったことな安心する。
それよりも彼女の言葉に泣きそうになった。
まだちゃんと昔の俺との約束を彼女は覚えていてくれた。
完全に俺を忘れているわけじゃなかったらしい。
このことがどれほど嬉しいか。
だって、
今の俺も昔の俺も両方に想いを寄せてくれてるってことだろ。
幸せものじゃねーか。
「なに?彼氏の前でそんな大胆に二股宣言するんだ。悲しいなー、俺」
「ば、ばかじゃないの!二股なんてしてないし、これからだってしないわよ!」
そして彼女は言う。
今私の前にいてくれるのは上総だけでしょう?
こんな私を愛してくれるのはあなただけだもの。
「...反則だろ、それ」
俺のあるかないかの理性は綺麗に跡形もなく弾けとんだ。
かーくんの正体を明かそうかと思ったけど、そんなの後でもいい。
今はこの抑えきれない感情をあるだけ全部明子にぶつけたい。
もうどんな邪魔が入っても止まらない。
──────否、
もう誰にも止めることなんてが出来ない。
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