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「なんで今まで私気づかなかったんだろうね」
小さく呟いた声でさえも上総はしっかり拾ってくれる。
「別に気にすんなよ。俺も会ったときにすぐ伝えるべきだったんだろうし」
大にもよく怒られたよ、と苦笑いをする彼。
「大ちゃんに?そんなによく会ってたの?」
不思議そうにして聞く私に、上総は困ったような曖昧な表情を浮かべて答えた。
「あぁ...言ってなかったよな。実は明子と一緒に暮らし始めてから夜は大体いつも大のとこ行ってたんだよ」
下の階を指さしながら。
「え?」
「情けないけど、お前に手出しちゃいそうだったから大のとこに逃げてた」
恥ずかしそうに少しだけ俯きながら。
うそ、でしょ?
あんなに私が妬いていたあの空白の時間は私から逃げるため?
会っていたのは麻里亜さんじゃなくて、大ちゃん!?
...なんだそんなオチ。
嫉妬して悲しくなってた自分がバカみたい。
「え...じゃあいつも机の上に置いてあったメモって」
「一応心配させないように置いたんだけど」
上総なりの心遣いが逆に嫉妬心を掻き立てていたなんて、とてもじゃないけど彼には言えない。
だって醜いじゃない。
嫉妬なんて。
でもさ、
行き先くらい書いてくれても良かったのに。
そうしたらきっと、無駄な詮索とか訳のわからない誤解とかを生まなくて済んだはず。
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