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アリアはどさりとソファに座り、窓の側に立っている昇を一瞥してため息を漏らした。  結局またマンションの部屋に逆戻りし、おまけに厄介なお荷物つきになってしまった。  ちょっとからかって刑事の動きに探りを入れようと企んだのだが、失敗してしまった。 刑事達がいてはヒロに会いにいけない。それに、「あれ」がもし刑事の手に渡ったら。なんとかその娘から取り返さなければ。 東十無は昇に室内から様子を窺うよう指示し、自分は車で張り込みを続けている。おそらく、自分が追っている泥棒の部屋にあがりこむことは、さすがに慣れ合いのようで躊躇したのだろう。 「なんだか兄貴の態度が不自然だ」  窓辺に寄りかかり、外の様子を伺いながら昇は呟いた。 「何が?」  アリアがそう返すと、昇は腕組をしてアリアを観察するようにじっと見つめた。 「車の中で、兄貴はずっとお前と顔を合わさないようにしていただろう。おまえさ、兄貴と何かあった?」 昇の言うように、十無と色々あったのは事実だ。だが、そのことについて、東十無は絶対に弟には知られたくないに違いなかった。  東十無の先ほどの態度で、アリアにはそれがよくわかった。  「……話したら刑事さんが怒るからやめておく」 「ということは何かあったんだ」 それにはアリアは答えなかった。 「ちぇっ。黙秘か」 昇は顔と態度の全てで不満を表現していた。感情がすぐ表に出るようだ。同じ顔でも正反対の態度。 今度はアリアが昇の顔を見つめた。 「なんだよ、人の顔をじろじろと」  昇が鼻の頭をかいた。 「ほんとに似ているなと思って、でも違う」 「違ったら悪いか」 「わ、悪くはないけれど――」  初対面なのに、どうしてこんなことを言ってしまったのだろう。  アリアは声を小さくして俯いた。  十無と錯覚してしまうせいかもしれない。 「……兄貴がここへ残るほうが良かったか」  アリアはどきっとした。アリアの気持ちを知っているのかと思わせる昇の言葉は、何もかも見透かされているのではと思ってしまう。 「刑事さんなんかいつも仏頂面で冷たいし、来なくて結構」 アリアは気持ちを隠すように悪態をついた。
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