おはなし

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振り向いたカズ、もとい兄ちゃんは苦笑いを浮かべる。 「兄ちゃん、なんで…」 おかしいと思っていた。 非現実すぎていて、そんなこと考えもしていなかった。 だけど、カズが兄ちゃんなら、全て繋がる。 カズが、俺の好みを知っていたこと。 カズが、俺の名前を言えたこと。 カズが、随分前に完結した本を知らなかったこと。 カズが、今の流行りに疎いこと。 全て納得できた。 「バレちゃったかー」 「兄ちゃん…、」 また、会えた。 気付くのが遅くなってごめん。 じわりと滲んでくる涙をグッと堪え、兄ちゃんに抱き付いた。 兄ちゃんはグラついたが、しっかりと俺を支えてくれる。 「兄ちゃん、兄ちゃん」 今までは別に気にしていなかった兄ちゃんの手の冷たさ。 俺の背中に回された手から、ああ、兄ちゃんは、この兄ちゃんは死んでるんだ。 そう思ってしまい、腕に力が入った。 「亮太、俺はもう一度だけ亮太に逢いたかったんだ。あんな幼い亮太を残して逝くなんて、兄ちゃん失格だしね」 俺はいつも座っている自分の場所に。 兄ちゃんは俺がカズには座らせなかった兄ちゃんが座っていた場所に腰を下ろした。 その時、ぐらりと揺らいだ兄ちゃんは頭を押さえる。 駆け寄ろうとした俺に、兄ちゃんは片手で制して話を続けた。 「もう一度こっちの世界に来るのに、何年もかかっちゃったけどね。でもやっと、来れた」 ぎゅっと、手に力が入った。 「だから俺、死人なんだよ」 兄ちゃんが生きていないという、現実を押し付けられた気がした。
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