おはなし

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数年間の会えなかった期間を埋めるように話をした。 俺の学校生活。 兄ちゃんが居なくなって、変わってしまったこととか。 話しても話しても、話し足りない。 これからはずっと一緒だ。 そう思ってた。 「…兄ちゃん…?」 兄ちゃんの線が一瞬だけ歪む。 はっとした表情をした兄ちゃんは、自分の手を見つめて苦笑を浮かべた。 その手は、透けて地面に生える苔を写していた。 「もう時間みたいだ」 馬鹿じゃねーか、俺。 そんないつまでも居られる訳じゃないって。 こうして今逢えただけでも、奇跡だと言うのに。 兄ちゃんが消えていってしまうのは、しょうがないことなのだと。 淡く光る。 合わせた手は、既に触れることが出来ない。 もう逢えない。 兄ちゃんとの、本当の別れだ。 「亮太に逢えて良かった。俺は幸せだったよ」 笑う。 涙で滲んでしまった視界が、憎らしい。 「俺だって、幸せだった!」 ぐっと堪えて泣き笑う俺と、溢れてしまったとでも言うように笑い泣く兄ちゃん。 「泣かないの」 額にキスをされる。 思わず瞑った目を開けた時には、兄ちゃんは消えていた。 幻。 実に幻のような数日間だった。 温もりのない手を握り締めるように、俺は泣いた。
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