おはなし

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「…っと」 「あ、ごめん」 「こちらこそー」 鼻歌混じりに歩いていれば、人とぶつかる。 森に向かっていたため、相手は森から来たということだ。 珍しい。 森に向かっていて人と会ったのは、初めてだな。 「亮太…?」 さっさと行ってしまおうとしたのに、俺の名前を呼ばれる。 知り合いかと顔を上げるが、知らないやつだ。 制服を見る限り、俺の隣の高校だし。 ふんわりとした茶髪は、兄ちゃんとそっくりだな。 「え…と?」 「いや、ごめん。今は話せない。またね」 「はあ…」 意味が分からない。 話せないって?俺、いつお前と話したいって言ったよ。 それに、なんで俺の名前知ってたんだろうか。 うーん、と暫し止まり考える。 が、俺の少ない脳はすぐに考えることを放棄。 まあ、隣の高校だ。 人伝に知っていたのかもしれないし。 そんな有名なことやってないけど。 ガサガサと生い茂った草を掻き分け、木の枝を避ければ、俺のお気に入りの場所。 神秘的な森の空間。 薄暗い森の中だから、誰も知らない。 兄ちゃんと俺だけの場所。 今となっては、独り占めなのだけども。 木に寄りかかり、持ってきた本を読む。 いつの間にか日課だ。 静かな所だから、読みやすい。 兄ちゃんと一緒にいた場所から、離れられない俺は女々しいと思う。 兄ちゃんがいた頃は、俺は幼い子供だったのに。 いつも一緒にいてくれたから、兄ちゃんのことが大好きだったし、親よりも慕っていた。 もう、死んでしまったけれど。
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