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一たび下の階に降りれば、目に入るのは苦しそうに呻いている帝国軍の兵士だった。停電しているのか、明かりも必要最低限の明るさの予備電源の微弱な電気しかない。そんな薄暗い廊下の地面に横たわり、腹部の傷口を押さえて必死に呼吸をしている。
「大丈夫ですか!」
フェアは驚いてしゃがんで駆け寄った。
初めて見る大量の人間の血液と死んでしまいそうな人。それでも生きようと懸命に呼吸を続けているのが逆に怖かった。
「死にたくない……いやだ……」
フェアの顔を見ると、血の気の失せた青白い顔が藁にも縋る表情で訴えて来た。
フェアはこの時また、何もできない自分に気がついてしまった。助けたくとも、助けられない。
「助けを呼びます」
結局人に頼るしかできないのか……。そう思いながら立ち上がると、兵士は瞳を閉じて「ありがとう……」と掠れた声で言った。続いて辛うじて持ち上がっていた腕がぽとりと水に濡れる地面に落ちた。
荒かった呼吸も、しきりに震えていた身体の動きも止んでいる。
「嘘だろ……」
目の前で人が死んだと言う事実がいまいち呑み込めず、それでも確かに存在していた命が失われたのは確実だ。フェアは頭を抱えて吐き気を押さえ、相変わらず振動がする床の下を見た。
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