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「子供の頃に帝都から出て行ったんだよ」
そして言われた。「お前の母親は帝国を、王を裏切った」と。
今日までは母親をひどく憎んでいたが、今となってしまっては誰が正しいのかなんて分からなかった。
《悲しかったか?》
「いなくなったその時はね。俺も子供だった……」
フェアはズボンのポケットに手を入れながら肩をすくめて言ってみせた。
「そう言えば力を貸してくれてありがとう」
《律儀な性格だな。私は暴れられればそれでいいと言ったはずだ》
「……どうしてそんな事を? チェインソードって一体何なんだ?」
チェインは暫し黙った。何もできないフェアは彼女が答えを返してくれるのをじっと立ったまま待つしか無かった。
《……私にもよく分からない》
「は?」
フェアは思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
《ただ記憶を集めるのが好きなだけで、私は私が分からない……》
これは弱音と言うやつなのだろうか……? 人を殺す事さえ躊躇わない殺人鬼の様な存在のクセに……。
「今の俺も同じだ……。自分が何なのかよく分からないんだ」
《お前……》
「でもやらなくちゃいけない事はあの時確かにあった。結局君の力を借りたけど……」
フェアはそう言うとチェインの言葉を待ったが、彼女からの声が返ってくる事は無かった。
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