必要にして十分

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いま、俺の監房の前を見回りの看守が通り過ぎた。見回りは大体20分に一回。時間の余裕は十分にある。 俺は早鐘のように打つ心臓を鎮めるため、しばらく深呼吸をしてベッドから起き上がった。焦らず静かに準備をはじめる。チャンスは一度切り。しくじれば四六時中の監視のなか死刑執行を待つことになる。最悪の結末ってやつだ。 確実な死を目前にすると、俺みたいな無学な犯罪者でさえ我流の哲学を持つことになる。 いかにして生くべきか? そんな問答をしたところで、もはや手遅れだ。俺は減刑や再審の望みの無い死刑囚だし、脱獄の可能性は一分たりとも無い。 では、いかにして死すべきか? 決まっている。奴らが俺を死刑台に送り込む前に、自分で片をつけるのだ。
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