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衣服やらタオルやらで首吊り自殺を試みる囚人は多いが、打率は三割といったところ。一度切りの大勝負にしては分が悪い。そこで俺が鼠野郎から調達したのが、炭素鋼製の極細ワイヤーだ。これなら仮に窒息死を免れたとしても、失血死は確実だ。苦痛は酷いもんだろうが、目的のためには仕方が無い。
死刑による安楽な薬殺。それに惹かれる気持ちがあることは否定出来ない。だが、そもそも俺は他人の指図に従うだけの人生に嫌気がさして家族を皆殺しにしたのだ。あの殺人もこの自殺も俺にとっては等価だ。
たとえ最終的な結果が同じでも、他者の意を諾々と受け入れることと、自らの意思ですべてを裁量することとのあいだには、明確な違いがあるはずだ。
そう、無限の隔たりが。
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