序章 『新・倭華記』より

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犬の図体は十尺、或いはそれ以上で、夜の闇よりも深い漆黒の獣毛に尖った顔、それに白い鬣を持っており、さながら群の中で君臨する狼の長のようであった。その鳴き声は雷鳴の如く、邪気を寄せ付けない。 虎もそれに負けじと豪壮な体で、獣毛は非常に珍しい白色をしていた。それは、かつて西方を守護していたと人々の間で信じられ言い伝えられていた瑞獣、白虎ではないかと村人達は畏怖の念さえ抱いた。 哀れな娘はとめどない母の愛を一身に受けて、犬と虎とともにすくすくと育った。 犬と虎はとても利口で、熱心且つ忠実に神の意に従い、心優しき親子を慕った。 娘は母譲りの桜色の髪をして、それはそれは愛らしかった。 年頃になると、その愛らしい娘の噂は村の外にまで広まった。外見の美しさとそれに沿わぬ悪評が益々人の興味を引き、いつの間にか【千罪の佳人】と呼ばれるようになった。
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