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「ここは……森の中……?」
木々が生い茂る深い森の中で里桜は辺りを見回した。木々の隙間から見える空は深い群青に黒色をよく練り込んだような色をしていた。空というキャンバスには、橙に近い赤色の月が異様に大きく胸を張っていたし、端々に深く青黒い影を携えている雲は、月に遠慮しているように上手く避けてゆっくりと流れていた。
里桜はここが店の近所でない事を重々に承知している。探せば似たような場所は見つかるかもしれないが、それだけでは言い表すことの出来ない空気が漂っている。吸う事は出来るが、取り込む事は出来ない空気だ。
「今度の“心奥門”(シンオウモン)は穏やかなところに通じてると良いんだけど。」
里桜に続いて扉を抜けてきた銀髪の青年、白虎が言った。
彼らが通った扉を【心奥門】(シンオウモン)と言った。
それは特定の人が持ち得る心の扉。日本ではない、はたまた地球でもない別の世界へ通じている。
彼らが降り立った地。そこはまさに異世界だった。
「取り敢えず、森を抜けようか」と、里桜は歩き出した。
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