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「リオ、重大な事に二つ気づいてる?」
「えっ?」
里桜が振り向くが早いか、突如何かが空から里桜目掛けて降りて来た。
「うわぁ!」と里桜は声を上げながらも右に高く飛んで、その何かを間一髪で避けた。
音は立たなかったが、地響きは周囲の木々を揺らした。避けた里桜は木の太い枝にぶら下がり、クルンと逆上がりをする形で枝の上に立った。
「グルルゥ……」
地上では先程空から降ってきた黒い物体が、白虎に向かって威嚇し、睨んで唸っている。それは影のようだった。凹凸すら判らない真っ黒の影のようで、その背に大人が二人乗っても平気で駆けそうな程の大きさの、虎のような豹のような、何にせよ巨大な四肢の獣である。
白虎は怯える様子もなく、見下ろすように対峙している。
「誰に向かって威嚇してんの?」
そう言った瞬間、影の巨大な獣が彼に飛びかかる。大きく開いた口の奥には鋭く尖った牙が見えた。
影の巨大な獣の前足が、白虎の首を掻き切ろう勢いよく振り上げる。
鋭い風が草木を揺らし、何かが深く切れる音が響いた。
「全く……出てくるのが早すぎだ。」
そう言ったのは白虎。いや、白虎の声をした獣。
首を切られた影の巨大な獣は倒れ、まさしく影のように闇に溶けて消えた。代わりに立っていたのは、白い毛並みの巨大な虎だった。
凛と立つその姿は神々しく、白く美しい毛は月明かりに照らされて銀色に輝く。白い身体に浮かび上がる黒い模様。虎が虎故に持ち得る威厳を湛える模様。畏怖さえ与える鋭い眼孔の奥には、琥珀色の瞳が君臨する神のように閃光を放った。
それが白虎の真の姿であった。
いや、人としての姿も彼であることに変わりはないのだから、どちらが誠かと容易に決められるものではない。
だが、白い虎の姿が彼であることも紛れもない事実である。
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