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先程まで青年であった白虎が着ていたシャツとズボンがヒラヒラと舞った。
白虎はこの二つの姿を持っている。
人の形をして、人の服を身につけ、人の中で生活出来る人型。神々しく、優美でありながら厳めしい、巨大な白い虎。
彼らは獣の姿へ変化する事を【転獣】(テンジュウ)と言い、人へ変化する事を【人転】(ジンテン)と言った。
「大丈夫?」
白虎は獣の姿のまま、木の上に居る里桜に声をかける。里桜は軽々と枝から飛び降り、青年白虎の着ていた服を拾いながら言った。
「早速【影獣】(エイジュウ)のお出迎えか。」
【影獣】とは、紛れもなく先程の影のような獣の事だ。あれらは様々な形を持った、世界の異物を食らう邪気の姿。心奥門の先へ足を踏み入れると、その世界へやって来た別の世界のものを異物と見なして現れる。つまりこの場合、里桜達はこの世界の異物なのである。
食われてしまえば、そちらの世界に取り込まれてしまう。ある者はそちらの世界の人へ転生、またある者は鳥や動物となり、はたまた植物に転生する事もある。共通して言える事は、取り込まれた者は元の世界の事を忘れてしまう事だ。
「この辺りにはもう居ないみたいだね。」
拾った服に付着した土を払いながら、里桜が言う。
「ああ、でも、もう一つ重大な事がある」と、獣の白虎は周囲を軽く見回した。「天狗が居ないよ、リオ。」
里桜はようやくその事に気づいてはっとした。
「心奥門を潜るときに、道を逸れちゃったのかな?」
「まあ、何にしても門を潜ったなら、そう遠くに飛ばされた訳じゃないだろう。森の中に気配らしきものは感じる。探してみよう。」
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