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里桜は首から下げた、十センチ程の錆びた古い鍵で先程通って来た青い扉、心奥門を閉じた。ガチャと、鍵を閉めると足元から徐々に扉は消えていき、数秒の内に鍵に吸い込まれるようにすっかり無くなってしまった。その代わりに、錆びた鍵はいつのまにか吸い込んだ心奥門の色していた。
「これでよし。行こう、白虎。」
「乗りな。夜更けの森は容易に動けないよ。いつまた影獣が出るかも分からないから、僕が駆けてあげる。」
獣の白虎は四肢を折り、里桜が乗りやすいようにと体を低く落とす。
里桜は拾った服をパーカーの内側に抱えてファスナーを締め、落とさないように固定した。そして、その神々しい背に跨がり、柔らかい獣毛を手綱代わりにしっかりと掴んだ。
「行くよ?」
白虎はニヤリと笑い、力強く地面を蹴った。次第に速さは増して、周囲の風景は一瞬にして流れ去る。密集した木々を見事に避けて、時には木から木へと飛び移るように白虎は駆ける。
「気持ち良いー!」
里桜の胸の辺りまで伸びた髪は、一本も残さずに風の川を流れるようにサラサラと靡いた。
「リオ、天狗を探すんだよ?楽しんでないでよく周囲を見て。」
白虎は速度を落とすことなく冷静に的確に言った。里桜はついつい楽しんでしまい、白虎の指摘が入るまで忘れていた。
「わ、解ってる。ちゃんと探してるよ。」
だが、素直に認めない。白虎は呆れたように目を細め、それ以上何も言わない。彼には里桜のくだらない嘘など簡単に聞き分けられたのだ。
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