赤騎士【二】

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「地上付近じゃ見つけにくいな。リオ、しっかり掴まって。空を駆けるよ。」 そう言うなり、白虎はその巨体が巨体である事を気にも留めない様子で軽々と木を登った。リズミカルに飛び跳ねるように幹から枝へ、枝から幹へ。余りにも軽やかな足取りで、木はよもや巨大な獣が登っているなど気づいてすらいないだろう。里桜はしがみついて身体を低く落とす。そうしなければ背から振り落とされてしまう。 葉と葉が擦れる鋭い音がして、僅かに木が揺れた。その拍子に白銀の虎が飛び魚のように木々の海から抜けて、空高く飛び上がった。 なんと不思議な光景か。白虎はそのまま木々の頭上を駆けだした。足元に道など無い。まさに空中を駆けている。 「天狗は見つかりそう?」と、白虎は自分自身も下方の森を見ながら言う。 「暗くてよく分からない。だけど、東方に小さい町があるみたいだよ。」 月明かりだけでは流石に乏しかった。深い闇に包まれた森から一人の青年を見つけるのは困難だった。 仕方がないので、二人は夜が明けるまで町で待機する事にした。もっとも、武術に長けた天狗であればその身ひとつを護る事は容易だろうし、転獣すれば彼の素晴らしい嗅覚で二人を追うことが出来るはずだ。今は、どこか結界の張りやすい場所で新たに影獣が現れないように身を隠すことが賢明だと里桜達は考えた。
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