赤騎士【二】

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一旦森の中に降りた白虎は、その背から里桜が降りたと同時に【人転】した。 里桜の背後では、今し方人へ変化したばかりの何も身に纏っていない青年白虎が、凝り固まった肩を解すように、或いは人の体を馴染ませるように腕を回している。その気配に気づいた里桜は、絶対に振り向かないようにと、断固としてただただ前を見ていた。 「リオ、服。」 そんな里桜の思いを知ってか知らずか、自分が素っ裸だという事を全く気にする様子もなく白虎は背後から手を伸ばす。里桜は慌ててパーカーのファスナーを下げ、抱えていた白いTシャツとジーンズのパンツを振り向くことなく差し出した。 衣擦れの音がする。白虎が背後で服を着ている。 「あ……リオ……」 「何?早くしないと影獣が出るよ!」 「僕の下着、拾い損ねたね。」 「あ、ごめん。」 獣の姿へ転獣する際に衣類を脱ぐ作業を、彼らはとても煩わしく思っていたが、他に対策がないので仕方がない。獣の姿に合わせた大きな服を着るわけにもいかないし、かと言って、裸のまま人の姿で過ごすわけにもいかない。 「着脱が簡単なローブみたいなものを羽織るのはどう?」と、以前里桜が提案してみたのだが、「それでは変質者と変わりありませんね」と玉兎が間髪入れずに返したことがある。 それからは、服を拾う事が里桜の役目のようになった。ただ、毎度完璧にこなされるものではなく、今回のように何かを拾い損ねたり、拾う事さえ出来なかった事もあるので、白虎も余り気にせずに渡された衣服を纏った。
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