赤騎士【二】

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そんな二人に忍び寄る灯りがひとつ。 「お前さん……“赤騎士様”じゃないかね!?」 橙の灯りが揺らめくランタンを持った腰の折れた老人が、里桜に向かってそう言った。皺の多い顔に夜の闇が膜を張って、男だか女だか見極めるのは容易でない。 「えっ!?」 暗闇の中から忽然と現れた老人に、里桜は恐怖に近い驚きを隠せなかった。その上、里桜にはその老人が何を言っているのか解らない。それは言葉の意味という事ではなく、老人が話す言葉自体が聞いた事も無いものだった。別の世界に訪れたのだから、言葉が通じなくてもそれは当然の事だと言えるだろう。 「白虎、何て言ってるの?」 一人で話を続ける老人を余所に、里桜は隣に座る白虎に尋ねる。白虎には老人の言葉が理解できた。 白虎の翻訳によると、以前この町は凶暴な狼に襲われたそうだ。その際、赤いマントを纏った騎士が、狼を跡形もなく消し去って町を守ってくれたのだという。そして、今またこの町は助けを必要としている。だから老人の家まで来てくれないか、という事らしい。 ここからは白虎の見解であるが、里桜が赤いパーカーを着て、刀を持っていた事からその人物に間違えられたのではないか? 「何にしても、天羽斬が反応していないなら、早く天狗を見つけてとっとと玉兎の待つ店に帰るのが賢明だと思うけど。用も無いのに別の世界に深く関わるのは不味い。」 そう付け加えた。
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