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翌朝、二人は老人や多くの町人に見送られて森へ戻った。その手にバスケットを持って。それは町人達に渡された物だ。中にはパンとブドウ酒が入っていた。
この話はあっという間に町全体に広がっていて、皆が賢者と行方知れずの者達を案じていた。
「賢者様はそれがお好きで……もし、病を患っていらっしゃるならそれで少しでも元気になっていただきたい。」
そこには町人達の賢者への直向きな想いが込められていた。
空は青々と晴れ渡り、時々綿飴みたいな小さな雲が流れていた。これがピクニックであればどれだけ素敵な日だろうか。だけど、現実は影獣や狼の存在を危惧しながら、森の中の老婦人の元へ見舞いに行くのだ。そこを間違えてはならない。
朝の森は穏やかで明るい。柔らかく差し込む木漏れ日は優しく、油断をすれば眠ってしまいそうだ。きっととても良い夢が見られる事だろう。
町人に渡された地図を見ながら二人は進む。舗装はされていなかったが、踏みならされた道が出来ていたので昨晩よりも快適に歩くことが出来た。
途中、開けた花畑を見つけた。色とりどりの多種類の花が咲いていた。
「ねえ、白虎。花を摘んで行こうよ。」
「言うと思った。」
白虎は仕方なく里桜に付き合うが、その表情には安らぎと慈愛が満ちていた。遠すぎず、近すぎない距離で里桜を眺めながら白虎は思う。やっと、傍で大切なものを護る事が出来るのだと、それをどれ程望んだことかと。
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