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白虎は近くに咲いていた赤いチューリップを一輪摘んだ。
「リオ、もう行かなきゃ。」
里桜は摘んだ花をパンをくるんでいた油紙で包み、ブドウ酒の瓶に巻かれていたリボンで纏めて結んで小さなブーケを作った。それをバスケットに入れて嬉しそうに白虎の元へ駆けた。まるで、初めてピクニックに来た幼い少女のようだ。そうすると、さながら白虎は父親か母親と言ったところか。
「沢山摘んだね。お婆さんにあげるの?」
「うん。元気がないときに綺麗な花を見ると、心が落ち着くかなって……私はそうだから。」
そう言った里桜の笑みはどこか淋しげだった。
白虎は摘んだばかりの赤いチューリップを差し出した。
「じゃあ、これはキミに。」
里桜は誰かから花を貰ったのは初めてだった。受け取ってから暫く不思議そうに見つめていたが、身体にじんわりと温かい気持ちが広がり、とても嬉しそうに礼を言った。
その時。
草叢に何かが潜む葉擦れの音。穏やかな空間にそぐわぬ気配がこちらを見ていた。
「何か居るね」と動きを止めたまま白虎が言う。姿は見えない。影獣か?狼か?それとも別の脅威なのか?
里桜はそっとバスケットを置いて、背負っていた刀の下緒(サゲオ)を解いた。
鞘を握る左親指をゆっくりと立て、控え目な音を立てて鯉口を切る。金色のハバキが静かに鈍く光る。
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