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「大丈夫?罠じゃない?」
里桜は左手に持つ鞘をぎゅっと堅く握った。
「さあ?少なくとも彼に悪意は感じられないけど。」
白虎は狼をまるで人のように“彼”と呼び、その表情には戸惑いや怖れはない。
「どっちにしろ、入るしか無いよ。」
白虎は躊躇いなくドアの取っ手に手をかけた。
ゆっくりと開かれた先は、何処までも続く闇だった。
そこには、外観から想像し得る木の温かみを感じる部屋という物は存在しなかった。ただただ広がる闇。空間がすっぽりと抜けたようで、その広さも把握できない。
その奥から、雷鳴のような轟音が響いた。白虎は決して離れないように、里桜の手を掴んで轟音のもとへ走る。
すると、ぽうっと誘う灯火が二つの影を妖しく照らした。
ひとつは大きな犬だろうか?闇に同化する漆黒の毛並み。しかし首の辺りだけは白い。狼達の長であってもおかしくはない風格がある。先程の轟音はその鳴き声だった。
そしてもうひとつの影は、その隣でぐったりと横たわる老婦人。
「天狗!!」
里桜が叫んだ。大きな犬は即座に反応して、妖しく光る青い目が里桜を捉えた。その犬こそ、天狗のもうひとつの姿だったのだ。
「桜姫!駄目だ!来るな!」
転獣した天狗が里桜の声に答え、思わず雷鳴のような鳴き声を止めた瞬間だった。
「ぐあっ!」
里桜の直ぐ後ろで、数匹の狼が白虎に飛びかかった。
「白虎!」
薄明かりの中、里桜は急いで白虎を援護しようと刀を抜く……が、振り向いたその時、背後から何かに身体を縛られて身動き出来なくなった。
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