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狼達はこの老婦人に操られていた。かつて人であった姿を狼に変えられて。
狂ったように笑い出す老婦人。いや、婦人と言うには余りにもおぞましい。
「そうさ。そいつらは貴様とグルだったのだろう?赤き騎士よ。助けを呼びに行った我が子を、こいつらは町を襲いに来たと騒いで、貴様に殺させたのだろう?」
助けを呼びに行った?町を襲った?我が子とは一体“誰”の事を指している?
「ま、待って。町を襲ったのは狼でしょう?」
切られた腕を押さえて、痛みに耐えながら尋ねる里桜。
「我が子のように育てた私の子だ!!」
間髪入れずに老婦人は叫んだ。
「人でなければ子と呼ぶのはおかしいか!あれは賢いおとなしい子で、人に危害を加えた事は無かった!それどころか、あの日以外森から出た事も無かった……あやつは賊に襲われた私を助けようと町に助けを呼びに行っただけなのに……」
老婦人の頬には涙が伝っていた。
「私はなんとか助かったが、町に訪れたときには町人達が嬉しそうにはしゃいでいたのさ……狼は居なくなったと……」
赤騎士が消し去ったという狼は町を襲いに来た訳ではなかったのだ。
人々は、“狼は脅威”という己の中に潜んだ恐怖心故に間違った見解を導き出してしまったのだ。我々を襲いに来たのだと。そう決めつけて恐れた。
その結果、それを鵜呑みにした“赤騎士”と呼ばれた何者かは狼という脅威を消し去った。「消し去った」としか言わなかった町人達の話では、それがどういう行為だったのかは分からない。殺してしまったのか、追い払ったのか、或いは文字通り“消して”しまったのか。例えば異世界に飛ばしてしまったりして。
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