序章 『新・倭華記』より

6/23
前へ
/583ページ
次へ
洞窟内は酷く寒く、じめじめと不快な湿気が漂う。これまでに贄として差し出された女や子供の遺体が朽ち、骨となって転がっていた。 きっと、ここで待っていれば誰かが迎えに来てくれると信じたのだろう。或いは、何とか外に出ようと試みたのか。 唯一の出入り口は塞がれていた。 女は奥に進むことにした。 確かに、これまで生贄を捧げると、不思議と次第に村の悪状況は緩和された。それを聞いた女はその話を信じたのだ。 女に与えられたのは数日分の食糧と、数本の蝋燭、それに火打ち石のみであった。 心許ない細い火で灯りを取り、そろそろと洞窟の奥へ進んだ。その先に何かがあると、ただ信じた。世話になった村を救いたいと、心から思った。
/583ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加