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大学の肝試しサークルに所属している美咲達は、インターネットで心霊スポットを検索してはこうして肝試しに訪れていた。
今日のスポットは廃精神病院。
以前は精神に異常を患った患者専用の病院で、閉鎖病棟だったらしい。
そのため各部屋には牢屋のように鉄格子が張り巡らされていて、刑務所と差し支えない空間がより恐怖を醸し出していた。
この精神病院の噂は、『死んだことに気付いていない精神病の患者が、夜な夜なリハビリルームを徘徊している』というものだった。
廃病院を訪れたことは幾度かあるサークルメンバーだったが、精神病院、しかも閉鎖病棟など初めてで、真っ先に興味を楚々られ、週末の夜中に訪れたのである。
「うーん」
「どうかしたか?」
「こういう落書きは雰囲気を壊すからやめてもらいたいかな」
山奥に位置する廃病院、という設定は好物ではあるが、スプレーで描かれた古臭いマーキングメッセージを見ると、現実へと呼び覚まされる感覚が否めない。
美咲は不快感を露わにした。
確かに怖いが、入ってから精神病の幽霊どころか、何の気配も感じない。
そもそも霊感など皆無である美咲が肝試しサークルに入った理由は、お化け屋敷が好き、という単純な理由であった。
しかし国内最怖と言われるお化け屋敷を十往復したことで、並みのお化け屋敷では満足できなくなってしまったのだ。
大学で肝試しサークルの存在を知り、さっそく参加してみたところ、第一回目の肝試しで見事に虜になってしまった美咲。
それ以来積極的に心霊スポットを検索しては、龍也の車で遊びに来ている。
しかしどの心霊スポットに行っても本物の幽霊に遭遇したことは一度もなかった。
本物の幽霊には会いたくないが、怖くないのなら肝試しの意味がない。
とりわけ……。
「ねえ、もう帰ろうよ」
「もう、それなら博之君一人で帰ればいいじゃんか」
同行者の臆病者のせいで、美咲は非常に虫の居所が悪かった。
「無茶言うなよ、車だって金城君のだし」
確かにこんな山奥から一人で帰れと言われても不可能だろうが。
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