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二人になった空間で、龍也が煙草を取り出して口に咥えると、百円ライターで火をつけた。
龍也の煙草ですら、肝試しの空気を拐ってしまうのだと言いたかった美咲だったが、ただでさえ機嫌の悪い龍也にこれ以上口を出すと本気で喧嘩になりそうなので口を継ぐむ。
「今回もハズレっぽいね」
気を紛らわせるために、美咲は廃病院の廊下に懐中電灯の光を散歩させる。
「そうだな。でも肝試しって、雰囲気楽しむものだろ?」
だったらその煙草を今すぐやめろと言いそうになる。
「次からは別の奴誘うか」
急に小声になった龍也が、にやりと笑いながら煙を吐き出した。
声に出さずに頷いて、トイレにいる博之に聞こえないように笑った。
トイレから帰ってきた博之を引き連れて再び歩みを開始させる。
トイレに行ってる間にどこかに行ってしまおうかとも思ったが、それはさすがに可哀想すぎた。
もしくは、トイレから悲鳴が、という展開も待ち望んではいたのだが、結局何事もなく帰ってきてしまった。
不謹慎だが、残念だ。
階段を上がり、二階の廊下を進む。
二階はより深刻な病気を抱えた患者が多かったのだと、インターネットの情報にあった。
確かに下の階と比べると、部屋の鉄格子が強固なものに置き換えられている。
南京錠が廊下に落ちていた時には、あまりの生々しさにさすがに少し寒気が走った。
リハビリルームは二階の奥にあるという。
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