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「それにしても博之、二階に来てからやけに静かになったな」
恐怖が絶頂に達し、声すらも出すことが不可能になってしまったのだろうか。
気絶とかされたらあとあと面倒だと呑気なことを考えていると、博之はボソっと、聞こえるか聞こえないか程度の声で。
「別に……」
と答え、それきりまた黙ってしまった。
不審には思っていたが構うのも疲れるので放置。
サークル内にいる男に媚びるため霊感アピールをする女子生徒と同じような空気を感じたのも確かだったし。
「お、見えて来たぜ、あれがリハビリルームだ」
懐中電灯の光を除けばほとんど不可視状態の廊下の突き当たりに、他の部屋よりも大きな部屋が伺えた。
そこがリハビリルーム。
不思議なことにリハビリルームの扉はガラス張りになっていて中が覗けるようになっているのだが、そのガラスだけは割られていなかった。
他の窓ガラスは全て割られているだけに、妙な違和感を覚える。
「さすがにちょっと怖いかも」
「大丈夫だって、ほら、行こうぜ」
堂々と怖がる様子を見せない龍也が頼もしく見えた。
美咲はほんのりと笑いながら龍也の後ろに隠れるように張り付き、カップルの腕組みをするような体制になる。
その時、途端に後ろにいた博之が奇声のよな悲鳴をあげたのだ。
「うわああああああ!!」
龍也と美咲は身体を密着させながら同時に飛び跳ねると、博之を振り返った。
「なんだよ!」
苛立ちを露わにしながら龍也が怒鳴りつけるが、博之の視線は美咲達の後ろ、つまりリハビリルームへと向いている。
ドクンと心臓が高鳴り、背筋に冷やっとしたものが走る。
額から流れた汗に不快感を覚えることも忘れ、美咲と龍也はゆっくりと後ろを振り返った。
リハビリルームからこちらを見つめる人の姿に、二人の呼吸が止まる。
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