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どう考えても場違いな学生二人がこの黒市街に足を踏み入れたのには事情があった。
事情があったはずなのだが、そんなこともどうでも良くなるくらいに現状に戸惑っていた。
裏路地に入ってしばらくはよかったのだが、奥に進むにつれて柄の悪い人の密度が増えていく。
そしてついに五、六人の男性が狭い通路の前後を囲み、道を塞いでしまったのだった。
「あの……」
美咲が小さく声を出すと、紺色のジャージに身を包んだ金髪の男性が一歩前に出てくる。
「君達来るとこ間違えてない?こんな危ないところ来ちゃ駄目だよ」
口調は優しいのだが、両目の焦点が合っていないことがやけに気持ち悪くて恐ろしく、美咲は慌てて返答した。
「そ、そうですよね!ごめんなさい、今すぐ帰ります!」
美咲は龍也の腕をぐいっと引っ張り元来た道を引き返そうとしたが、そこにも三人ほどの男達が立っていて通せんぼ。
龍也が美咲の前に出て、一度深呼吸をしたのがわかった。
「すいません、通してもらえませんか?」
龍也なりに勇気を振り絞った結果だったが、それでも声は小さかった。
「じゃあ通行料置いていけよ」
意地の悪そうな男の笑みが不快で、美咲は吐き気を催した。
「え?」
「十万でいいよ。一人十万」
「そ、そんな……持ってな……」
言葉が終わり切る前に、顔を殴られて倒れる龍也。
美咲は小さく悲鳴をあげる。
地面に顔をつけながら鼻血と涙を流す龍也に駆け寄ろうとしたが、足が動いてくれない。
「金がねえんなら身体で払えよ」
「ま、待ってください!私!」
数人の男に腕を掴まれて拘束された瞬間、ようやく幽霊なんかより人間の方がたちが悪いということに気が付いた。
「や、やめてください!」
必死になって抵抗しても、複数の男性の力に叶うはずもなく、暴れるだけ虚しくなる。
「金が払えないんなら仕方ないだろ?」
「いや!やめて!」
龍也に助けを求めても、這いつくばって起きる気配は見られない。
叫び声を上げたところで、この街で助けてくれる人なんかどこにもいやしないのだ。
着ていたシャツのボタンを外され、あまりの恐怖に目を瞑る。
「はい、じゃあそこまでにしておこっか?」
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