至極の生活と調味料

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  四歳年下の妻とは三年前に仕事先で知り合った。 取引先の会社の受付に彼女は座っていた。 決して派手ではなく、たおやかに咲く花のような振る舞いに一瞬で心を奪われた。 ふんわりとカールした栗色の髪は天然だと言う。 風が当たる度に柔らかく揺れ、光が当たる度に艶めくのが本当に美しかった。 賑やかな場所はあまり好まず、デートはいつも植物園や高原。 雨の日に拾った傘を交番に届ける子なんて、初めて見た。 いつも私の体を労り、労いの言葉をかけてくれる。 毎朝気持ち良く出社出来るよう、前の晩にシャツとハンカチにきっちりとアイロンをかけてくれている。 仕事から帰ってくれば、例外なく家中ピカピカだ。 「お帰りなさい」と子犬のように嬉しそうに駆け寄る姿に毎日胸が熱くなる。 私は幸せ者であるし、周りから見ても私の家庭は幸せそのものに見えただろう。 そう、食事さえ除けば。  
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