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そんな大袈裟な、とでもお思いだろうか。
ではひとつ、妻自慢の調味料を紹介しよう。
冷蔵庫の隣に鎮座する、樽。
彼女の手作りの味噌が入っている。
これがもう不味い。
酷く不味い。
気が遠くなるほど不味い。
思わず原材料を聞いてしまうほど、不味い。
だが「朝のお味噌汁は元気を運んでくれるのよ」と笑顔で出されれば、寒気がするほどの鳥肌に堪えながら飲み干さない訳にはいかないのだ。
妻の得意料理はこの味噌を使った『鯖の味噌煮(ぶつ切りにされた鯖が浮かぶ酷く生臭い味噌汁)』であるのだが。
「お母さんの鯖の味噌煮が絶品だから、作り方を見て盗んだの。あなたにも食べてもらいたくて」と恥じらいながら笑う可愛い彼女を、誰が責められただろうか。
(後に知った事だが、彼女の母親の料理の腕前はごく普通だった)
もしかして、妙な物を食べさせ私の保険金を…?と思った瞬間もある。
だが彼女は私と同じ物を食べるし、その味に満足しているようだ。
なのに彼女によって生み出される物はことごとくクソ不味い。
彼女の味覚はポンコツなのだ。
これはもう、才能以外の何者でもない。
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