ブックマスター

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生きることに、少々飽きていた。 かなり前に定年を迎え、数年前に長年寄り添ってきた妻を亡くし、頑固で昔かたぎな性格のせいで親戚からも疎まれ。 息子と娘は一人ずついたが、いつの頃からかまったく顔を見せなくなった。一昨年、娘からは「結婚しました」という年賀状が届いた。その夫とは一度も会っていない。息子にいたっては、今どこに住んでいるのかも知らない。 そして、今夜。ふらりと近所の山に登った。月がやけに煌々と獣道を照らす。満月かと思いきや見上げると半月だった。真夏の今、木々は生い茂り、顔や剥き出しの腕にぴしぱしと当たる。 ぶうぅぅぅん…… と虫の羽音が少し煩い。
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