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青年は微笑む。指でそっとノートを撫でている。そのノートと、車の色が酷似していることに気付いた。
「さて、僕が語ることは以上です。紅茶をもう一杯?」
軽く掲げられたコップ。いらない、と答えるのが精一杯だった。
「おじいさん、大丈夫?顔色悪いですよ」
スヴニールがそう気遣う。
「いいや、大丈夫だ。……そろそろ帰るよ」
「そうですか」
青年は綺麗に微笑む。何故か、とても恐ろしい。
ぎくしゃくとした動きで立ち上がる。
「あ、でもまだ夜も深いですからね……スヴニール、フラム、麓まで御送りしなさい」
「はぁい!」
「はーい」
スヴニールは元気よく、フラムは面倒くさそうに返事をする。青年は微笑んだままだ。
扉を開けて、ふと振り返ると青年は、コップを片付けながら片手をあげて、
「あなたと良き物語が出逢えますよう」
微笑んだ。
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