じゃあ、また今度

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 でも、僕は伝えたかったのだ。  例え聞こえなくても。例え触れられなくても。気付いてもらえなくても。  僕は君の幸せを願っている。死んでしまった男の影を追い続けるよりも、今の君を幸せにしてくれる誰かと一緒になって欲しいのだと。  死んでしまった僕が何を言っても意味はないのかもしれない。それでも言葉にせずにはいられなかった。  ……もう、時間だ。  送り火が流れ、徐々に遠く、宵の闇の中へと消えて行く。全ての灯火が消えた時、僕が此岸に居られる時間は終わるのだ。  何かができたわけではない。でも、十分だ。死んでしまった僕にできることは、これくらいしかない。そう思うことしかできない。  ――そんな時。 「……もう、会いに来てくれないのね」  殆ど消え失せた灯篭の火を眺めながら、彼女が呟いた。  滴る、透明な雫。しゃがみこんだまま膝を抱え、微かにしゃくり上げるような声。  ああ――彼女は、気付いていてくれたのか。見えないのに、聞こえないのに、僕がそばに居るのだと信じてくれていたのか。そうして最後の最後に、伝わったのか。いつも気丈に振舞っていた君が、僕との別れを悲しみ泣いてくれるのか。  それだけで僕は、満たされる。  ありがとう、ありがとう、 「……ありがとう」  泣いている彼女を抱きしめるようにして、耳元で囁く。  ふっ、と彼女が驚いたように顔を上げた。周りを見回し、立ち上がり、何かを求めるように手を伸ばす。  僕はその手を、取ってはいけない。僕はもう死んでいる。別れだと、決めたのだ。  だから最後に僕は、言うのだ。 「また、来世で会おう。今度こそ僕は、君のそばに居続けてみせるよ」  彷徨ってした彼女の手が、落ちるようにして収められた。  涙の浮かぶ瞳。くしゃくしゃになった顔。  それでも彼女は僕の好きだった笑みを浮かべて、答えてくれた。 「今度は、私を置いていかないでね」 「ああ……、約束だ」  ――じゃあ、また今度。  ずいぶんと軽い言葉だったかもしれないけれど。 「……うん、また今度」  彼女もそう言って、僕を送り出してくれた。  ――来世こそは僕が幸せにしてしみよう。  魂だけの体にそう誓いを刻みながら、僕の意識は微睡みの中に消えていった。
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