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「からかってスマン。つーか、お前、本当に篠宮のこと好きなんだなぁ……」
「なんでそれを!!!!!」
「いや、もうお前、今の時点で隠せてると思ってんなら天才だよ……」
「どういう意味っすか……」
止めどなく溢れてくる涙を左袖で拭きつつ、さらに鼻をすするオレ。
若頭は、ぽりぽりとオールバックの頭を掻くと、
「なぁ、篠宮。こんだけ愛されてんだし、鍵谷と付き合ってやれば?」
罪滅ぼしとばかりドクターに驚くべき言葉を投げかける。
若頭とドクターは高校時代のクラスメイトだった頃からの10年来の腐れ縁で、親友でもある。
とはいえ、自分の口から言ったことすらない言葉が頭上飛び越えドクターへと伝えられたこの状況に付いていけず、オレはただ口を開けて2人を交互に見遣った。
若頭の視線の先、
「お断りいたします」
ドクターからは間髪入れずにつれない言葉が返ってきた。
それだけで、もう、地獄に落ちたようなショックを受けているオレに、若頭はなぜか畳みこむように言葉を続けた。
「そこをなんとか! コイツ、結構いいヤツだぜ?」
「無理です」
「ちょっとぐらい、いいじゃねぇかよ、ケチっ!」
「くどいですね。ちょっともイヤだと言っているんです」
「そんなこと言わずに、遊びでもいいからさ!」
「うるさい、断る!」
いつも丁寧な敬語のドクターの口から敬語すら消えた返事に頭が床にめり込んでいくような錯覚に陥る。
若頭も親切心なんだろうが要らぬお節介だ。
つーか、ドクターもそんな力一杯断らなくても良いんじゃないだろうか……?
心の悲鳴に耐えきれず
「なんで自分で告ってもないのに、めいいっぱい振られないといけないんスか………オレ……」
魂の嘆きを呟くとピタリと若頭とドクターのやりとりが止まった。
気まずい沈黙が続く。
「そ、そういえば鍵谷君」
ドクターに呼ばれて、うなだれていた頭を持ち上げる。
「怪我したんですよね? 治療しましょうか……」
自分でも忘れかけていたが、右肩がハンパないことになっていた。
ニッコリと笑いかけるドクターの笑顔に半分魂を持って行かれつつ、オレはコクリと頷く。
(あぁ、やっぱり好きだわ……)
そう再認識しながら。
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