クスリ、ダメ、ゼッタイ!!!

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さて、今日もクソ暑いなか半日掛けて担当のシマを周って、5軒の“みかじめ”回収と3グループの教育的指導をこなし、現在、夕方5時を少し回ったところ。 ようやくオレたちは本日最後の店の扉を開けた。 看板にはバー“ジャスミン”の文字。 「ママーーー、“みかじめ”ちょうだい」 「あっちーーーー」 佐藤とオレは口々に言いながらエアコンの効いた店内に足を踏み入れる。 暑さをこらえて回った達成感と疲労感がどっと押し寄せて、開店前でまだ客のいない店内に据えられているカウンターに身を投げ出すように腰掛けたところ、タイミングよく冷たいおしぼりが出された。 「2人とも、お疲れさま」 「ママ、超やさしーー」 「あざっす」 受け取って火照った顔に推し当てる。 ひんやりとした布からは仄かなシトラスの香り。 佐藤とママから「親父臭い」と言われようが、そんなこたどうでもいい。 あぁ…このまま、カウンターに額をつけて寝てしまいたい………。 欲求のまま、おしぼりを顔にこすりつけてカウンターに突っ伏すと、後頭部に冷たい何かが置かれた。 カラン……と、氷が奏でる心地よい音が響く。 オレの手が後頭部のグラスを支えてから起き上がるのを確認して、手を放したママは棚の奥から高級なウィスキーを取り出すと水割りを作って、“みかじめ”の入った封筒と一緒に佐藤の目の前に置いた。 「はい、どうぞ。今月もよろしくね」 「ありがとーー!!!! ママのために見回り頑張るね」 「あらあら、ウソばっかり。口ばっかりで、あまり顔出さないじゃない」 うっとりと佐藤を見ながら、言葉とは裏腹に顔を綻ばせるママに佐藤は苦笑を浮かべてみせる。 “みかじめ”回収のため店に入ると、佐藤を引き止めるために高級な酒や料理が出たり、貴重な情報がもたらされたりするのは日常茶飯事のコト。 そして、オレにはおざなりにオレンジジュースが出され、存在すら忘れられるのもいつものことだ。 今日はストローすら出ないので、コップに口をつけて喉の乾きを癒しつつ、2人のやりとりを見守ることにした。
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