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「そういえば、あーちゃんの組、とうとうクスリに手を出したの?」
クスリとウリには手を出さなかったのに……と、ママは残念そうに長い指で佐藤の顔をつるりと撫でながら、突拍子もないことを口にした。
ちなみに、佐藤の名前は「周(あまね)」という。
「えっ? クスリ?」
思わず佐藤とオレの声が重なり、オレたちの驚きにママの方が驚く。
訝しげにオレたちを見つめるママの視線とオレたちの視線がぶつかった。
「ねぇ、ママ。今、クスリって言った?」
口火を切ったのは佐藤だった。
訊き返す目がいつもより真剣だ。
「そうよ? 私、何か変なこと言ったかしら……?」
小首を傾げるママに
「うちは、親父も若もクスリとウリは嫌いだから絶対にやるわけないよ。万一、隠れてやってバレたらどうなるか分かったもんじゃないし、何かの間違いじゃない??」
佐藤は笑顔を浮かべながら、探りを入れるように問いかけた。
「でも、最近この辺りで新しいクスリが買えるって聞いたジャンキーたちが付近を徘徊してて……。怖いったらありゃしないのよ?」
真っ赤なルージュが引かれた唇に人差し指をおしあて、佐藤に困ったような視線を投げかける。
「だから、ホントは、あーちゃんがもっと見回りしてくれたらって思ってたんだけど」
「うーーん、オレより腕っ節強いから、鍵谷派遣するよ」
「あら、ツレない」
どこまでが本当か分からないママの言葉に、困ったように笑う佐藤に、睨むオレ。
オレの視線に気付いたのか、佐藤は宥めるようにオレの肩を叩いた。
「でもね、ママ。うちの組でヤクって、マジありえないんだよ……」
「あら、あーちゃんは私が嘘ついてると思ってるの!?」
「いやいや、ウソなんて思ってないよ。思ってないけど勘違いじゃないかなとは思う……」
語尾が弱くなる佐藤に拗ねて見せるママ。
なんだかよく分からない男女の駆け引きだ。
こういう面倒くさいのがオレは大キライだ。もっとズバッとやりとりすればいいのに……。
例えば「好きだから抱いて!!」「イヤだ、趣味じゃない!!」くらいあっさりした会話でいいんじゃないか? もう。
オレは冷めた目で2人を眺めつつ、手元のコップをあおった。
そろそろオレンジジュースも底を尽きそうだ。
もう先に帰っていいかなと溜息を吐いたところで、いつの間にか目の前に立っていた絶世の美人がオレンジジュースを注いでくれた。
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