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「何寛いでんだよ! お前も行くんだよ」
「マジかよ!!」
当然のように言う佐藤に驚きを隠せず、大きな声を上げるオレ。
しかし佐藤は仁王立ちだ。
「1対3とか、お前、オレに何させるつもりよ!? オレの細腕で何ができるって?」
「ざけんな、お前、段持ちだろ!? たまには戦えよっ。それに、今日オレ、丸腰なんだよ」
「戦うのシンドイし、お前の方が似合ってるから気合いで乗り切れ」
「気合いで乗り切れるような相手なのか!?」
オレの抗議に聞く耳すら持たず、佐藤は容赦なく椅子から無理矢理引きずり下ろすと、オレのゆるゆるのネクタイを手に巻き付けて引っ張る。
「くっそ、首!! 佐藤、首しまってる!!」
「うっせぇ、行くぞ! 鍵谷!!」
「なんなんだ、その無駄なヤル気は!!!! せめて何か日本刀に代わるエモノくれよ!!」
なんとかネクタイを取り戻したオレの悲痛な叫びに答えたのは、佐藤でなくヒナタだった。
「鍵谷くん、こんな物でよかったら……」
カウンターから出てきたヒナタが持っていたのは……傘。しかもブランド物の……。
「長い物ってこんなくらいしか……」
「………そうっすよね。普通の店に木刀とか鉄パイプとか金属バットなんて置いてないですよね」
「残念だけど、置いてないねぇ……」
ヒナタの言葉に、心底しょんぼりしながら手を伸ばし、傘を受け取る。
「あ、じゃ、お借りします。つーか、二度と使えなくなるかもしれませんが……」
「うん、全然気にしないよ。弁償してくれたらいいから!」
「……あ……うん……」
弁償って…………、コレ使えねぇじゃん………。
その言葉を空気を読んで飲み込むと、オレはさっき入ってきたばかりのドアから再び夕照の街へと降り立つことになった。
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