893だって恋してもいいだろ?

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篠宮医院の古くさく重たい鉄製の扉を開けると、そこに広がるのは目も疑うばかりに明るく清潔でキレイな空間。 外観とのギャップに、初めて来た人は誰もが一度は扉の外と中を見比べると有名だ。 オレも慣れるのにかなり時間がかかったが、大怪我で入院したり2日と空けずに来たりしたこともあったので、いまではこのギャップがないと逆に違和感を覚えてしまう。 室内は白を基調とした調度類がセンスよく配置され、耳に心地よいクラシック音楽がいつも静かに流れている。 待ち時間に読むための雑誌や書籍が整然と並ぶ本棚の上には、活き活きとした生花が飾られていた。 まぁ、花瓶に刺さる花のなかでオレが唯一分かる花はヒマワリだけだったが……。 入り口の横には土足を入れる靴箱が置かれ、ビニール製のスリッパが整然と並んでいる。 壁にかかった時計を見ると午後8時をまわっていた。 夜の診察時間も終わったはずだが、患者がまだいるらしく、ピカピカに磨かれた男性ブランド物の靴が1つ強い存在感を放っていた。 オレは不思議に思いながら、手早く靴を脱ぐとスリッパに履き替えた。 ここのドクターは普段は必ず時間厳守で医院を閉めるからだ。 ここはオレたちみたいな893を診てくれる貴重な病院。 銃弾で撃たれた傷の手当や、半分内蔵がはみ出してるようなヤツの治療、エンコを切った後始末などの対応までしてくれる。 つまり、いつ勃発するかわからない抗争などの救急外来で戦場のような忙しさになることも多いので、体力温存のためにも延長診察はしないのだ、とかつて聞いたことがあった。 「すいませーーん」 声をかけながら入り口すぐ横にある受付を覗くが、この病院唯一の看護士にして雑用係もいない。 ソイツとオレとは犬猿の仲のなので、それはスゴく嬉しい状況だ。 オレは、勝手知ったるなんとやら。 ペったペったと音を立てながら、診察室に向かいつつ 「ドクター、鍵谷っす!! 怪我しましたぁ!!」 と奥へ声をかける。 しかし、返事はない。 いつもの事だから気にかけない。 ……いや、気にかけないことにしているという方が正解かもしれない。 オレは、さらに奥へと向かう。 この建物、間口は狭いが奥行きはハンパない。 しばらく歩いて、建物の中ほどにある診察室の前に立った。
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