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診察室のドアは閉まっており、「診察中」と長方形の札がかかっている。
多分、入り口にあったブランドの靴の人物の診察中なんだろう。
「ちぇっ」
オレは溜め息を吐きながら、診察室前に置かれた簡易の長椅子に腰掛けた。
今までドタバタしていたから気にもならなかったが、落ち着いてくるとズキンズキンと疼く右肩。
ここ最近、暴れることもなかったので久々の怪我だ。
だからか痛みも余計に感じてしまう。
「あーー、痛ぇ……」
「鍵谷、痛む? ゴメンな? オレのせいで……」
今まで黙ってオレに付いてきていた佐藤が申し訳なさそうに声を掛ける。
「お前じゃなくて、あの下っ端のせいだろ。気にすんな」
「でも……」
「いいから」
心配げな視線を向ける佐藤におざなりに片手を振りながら壁に背を預け、上を向く。
ふぅ、と深呼吸をひとつ。
そう、久々の怪我なのだ。
ズキンズキンと鼓動にあわせて疼く傷にそっと触れる。
(どうしよう、ドキドキしてきた……)
久しぶりに目にするだろう姿を思い浮かべて、心拍数が上がるのを抑えられない。
実は怪我をしないと会えない相手に、オレは恋している。
スラッとした白衣に包まれた長身。
色素の薄い柔らかい髪、絶えない優しい笑顔を思い浮かべると、それだけで口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
ふぅ……と口から飛び出す溜め息にも似た吐息に、佐藤が苦笑を漏らす。
隠しているつもりだが、佐藤曰くオレの恋心はバレバレだそうだ。
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