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――ああ。
その時の気持ちをどう表現したら良いのだろう。
『この人』に指差された胸に根付いた熱を、なんと呼べばよいのだろう。
頬を、なにかが流れ落ちていた。
世界が滲んで見えた。
喉が引きつる。
嗚咽が漏れ出す。
胸が熱い。
心臓が痛い。
胸元を握りしめて、身体が折れる。
偽物の身体の奥底の、けれど確かにそこにあるものが、ありもしない血液に流れて、手足の隅々まで全身を巡っていく。
全てが、変わっていく。
なにもかも変わらないはずの世界が、もう二度と戻らないほどに、変わっていく。
私の夜を、あの黄金色の光が消していく。
きっと。
光が満ちたあとには。
とても綺麗な朝焼けが世界を照らすのだろう。
ああ――。
それは、なんて、美しい――。
私はその日、ここに来て初めて涙を流した。
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