2045/05/15 北方ダンジョン第ゼロ層無制限解放フィールドにて

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「くる、しいよ……かなしい、よ……つらい、よっ」 「そう、そうだろうとも。この世界は理不尽だ。不条理だ。道理にもとる。全てまやかしのくせに、圧倒的な現実感を持って我らを襲ってくる。まるで苦界だ」   吐き出すような私の答えに、重装騎士は同意するように頷く。  「だが――」  そこで一度、言葉は止まる。  なにかに思い馳せるようにうつむき、しかしすぐにまた顔をあげた。 「だが、我は信ずる。信仰している。それは、ここに、在ると」  力強い、声色だった。自らの胸を親指で指し示し、言う。 「どれだけ傷つけられようと、どれだけ血を流そうとも、どれだけ涙を流そうとも」  重装騎士は言う。 「どれほど痛かろうが、どれほど苦しかろうが、どれほど辛かろうが」  ゆっくりと、静かに、しかし力ある声で。  どこかの、誰かに、語り聞かせるように。  この世界の、なにかに、宣言するように。 「『偽物』の痛みに負けるほど、人の心は、弱くない」  重装騎士は、言うのだ。 「人はこの世界に屈さぬ。人は前に進む。人は絶望を踏破していく。我も、うぬも、誰も、彼も。我が決めた。だから信ずる。故にそれはここに在る」  自らの胸を、私の胸を、男の胸を、指差し。  重装騎士は、言うのだ――。 「これこそが、真の黄金方程式。立ち上がれ。一万九百三十五人すべてのプレイヤー、一人余さず、この世界を越えてゆくぞ」  ああ――。  その時の気持ちをどう表現したら良いのだろう。  この人に指差された胸に根付いた熱を、なんと呼べばよいのだろう。  頬を、なにかが流れ落ちていた。  世界が滲んで見えた。  喉が引きつる。  嗚咽が漏れ出す。  胸が熱い。  心臓が痛い。  胸元を握りしめて、身体が折れる。  偽物の身体の奥底の、けれど確かにそこにあるものが、ありもしない血液に流れて、手足の隅々まで全身を巡っていく。  全てが変わっていく。  なにもかも変わらないはずの世界が、もう二度と戻らないほどに、変わっていく。  私の夜を、黄金色の光が消していく。  きっと。  光が満ちたあとには。  とても綺麗な朝焼けが世界を照らすのだろう。  ああ――。  それは、なんて、美しい、こがねいろ――。
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