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――それを目にして、叫び声をあげたのは誰だったのか。
彼かもしれないし、彼女かもしれないし、あるいは自分かもしれなかった。
だがその光景が、この場の誰にとっても絶望的なものであることだけは確かだった。
消えていく。
光になって消えていく。
あの人の身体が、心が、失われていく。
知らず、手をのばした。
そうすれば、なくなっていくなにかを掴み取れる気がしたのかもしれない。
けれど、指先は届かなかった。
なににも、触れることなく、あの人の全ては世界に溶けていってしまった。
「あぁ……ああああ、ああぁぁぁぁぁ」
引きつった喉から、声が漏れでた。
自分のものとも思えない、酷く、情けない呻き声。
のろのろと視線をあげる。
そこにそれはいる。
身の丈を優に超える、山のような巨体。
緑色の肌をした、赤い眼の化け物。
錆びた鎧に錆びた兜に錆びた剣。
赤錆にまみれた、このフロアのボスモンスター。
――《忘失された名も無き子鬼族の英雄》。
「おまえが……おまえがぁッ……! おまえがぁぁァァァァァァ!」
化け物は何も答えず、ただ無言でその剣を振るうだけだった。
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