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それは世界に対する、宣言だった。
このどうしようもない世界へと、告げる言葉だった。
「――だから」
重装騎士の貫くような眼差しが、眼前の名も無きゴブリンへと向けられた。
「だからうぬら幻想如きが、我らを傷つけることなど、出来るものか! 我らの歩みを、邪魔立てするなァァァァァッ――――!!」
叫びが放たれ、重装騎士は、ゴブリンの拳を大きく弾き返した。
まるで気圧されたように、その巨体を後退らせていく。
それを一瞥した重装騎士は振り返り、背後の全てのプレイヤーに、言う。
己の胸に拳をあて、彼らに突き出し、告げる、
「信じよ! それは、ここに在ると! この世界にあるただ一つの本当。人の意志が生む黄金色の輝き。それこそが如何なる苦難においても我らを前へと進ませ、光となって夜を越えさせていく」
重装騎士の周囲の空間が輝き、そこから、まるで雨粒のようにたくさんのなにかが地面へと落ちていく。
硬質な音を立てて転がるそれらは、全て、ガラスの瓶。
ポーション。
マナポーション。
「我らが意志を持ち続ける限り、それは我らと共に在り続けるのだ。三度地に伏そうとも、四度立ち上がらせる。だから我はそれをこう呼んでいる。――黄金方程式、と」
重装騎士の足元の剣士が、震える腕を伸ばし、その瓶を手にとった。
倒れ伏していた女魔術師が、その瓶を握り、叩き割った。
瀕死であったはずの戦士が立ち上がり、よろめきながらも近寄り、握りしめる。
立ち尽くしていた魔術師が、肩を貸していた弓兵とともに、それを拾った。
「我は信じている。我は信仰している。我の、うぬらの、黄金色の輝きを。だから、今はその心を休めている者たちも、いずれ再び立ち上がる。そう決めている。だから、我は、言うぞ。うぬらに、この場にいないこの世界の一万九百三十五人すべてのプレイヤー全てに」
前に向き直り、重装騎士はその手に大盾を召喚する。
腰を落とし、構え、怯えたように巨体を竦ませるゴブリンを睨めあげて、告げる。
「我らは負けぬ! 我らは屈せぬ! 我らは信じる! 己を、隣人を! だから、立ち上がれ! 武器を取れ! 足を踏み出せ! 我ら全てでこの世界を越えてゆくぞ――――!」
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