18.かの地へ

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(何もかもが通用しねえ!!) 槍を、剣をへし折られ。 最も得意な徒手空拳での戦いも見切られ、もはや打つ手はない。 一方的に拳と蹴りを浴び続け、ついには吹っ飛ばされる。 ボースの身体は遥か後方の木の幹に叩きつけられた。 まさしく蹂躙と呼ぶにふさわしいその光景を目撃し、ブラッドリーは戦慄した。 加えて驚いたのは、ボースを攻撃している者達の顔に見覚えがあったことだ。 (釈放されたんじゃ、なかったのか!?) 間違いない。彼らはあの日ラヴェンダーをかどわかした侵入者達だった。 直接尋問したブラッドリーにははっきりと判る。 だが、数ヶ月前に見たものと、今の彼らの動きは全く違う。 まるで、獣のような獰猛さだ。 でなければ豪傑として名高いボースを素手で圧倒出来るはずなどない。 彼らの様子を陰から窺っているリアムを見つけ、ブラッドリーは彼に詰め寄った。 「リアム!!・・・何だあれは」 「護国卿の指示ですよ」 「あのまま戦えば死人が出るぞ」 「それなら実験は成功ですね」 平然とそう言ったリアムの胸ぐらをブラッドリーはきつく掴んだ。 「教えろ、裏で何をしていた!?」 リアムは冷ややかに笑う。 「あなたは知らなくていいことです。今さら中途半端な正義感振りかざすのはやめて下さいよ。所詮同じ穴のムジナなんですから」 「・・・がはっ」 吐血しながらもなんとか立ち上がったボースだが、頑健なはずの彼の身体中が悲鳴を上げていた。 (こりゃ、やべぇな・・・) 足に力が入らない。 ふらつく身体を支えるのが精一杯だ。 敵は容赦なく自分にとどめを刺そうと迫ってくる。 (…すまねえ) 5対1。圧倒的不利な状況に、ボースが死を覚悟した時。 ―彼女は、現れた。 凛とした背中。 燃えるような深紅の髪。 降りしきる雨の中、彼を庇うように立ちふさがっていたのは、剣を構えたリリー姫だった。 「姫様、あんた・・・なんで戻って来たんだ」 苦虫を噛み潰したような表情のボースに対して、リリーは優しく微笑んだ。 「あなたを死なせたくなかったから」
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