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(何もかもが通用しねえ!!)
槍を、剣をへし折られ。
最も得意な徒手空拳での戦いも見切られ、もはや打つ手はない。
一方的に拳と蹴りを浴び続け、ついには吹っ飛ばされる。
ボースの身体は遥か後方の木の幹に叩きつけられた。
まさしく蹂躙と呼ぶにふさわしいその光景を目撃し、ブラッドリーは戦慄した。
加えて驚いたのは、ボースを攻撃している者達の顔に見覚えがあったことだ。
(釈放されたんじゃ、なかったのか!?)
間違いない。彼らはあの日ラヴェンダーをかどわかした侵入者達だった。
直接尋問したブラッドリーにははっきりと判る。
だが、数ヶ月前に見たものと、今の彼らの動きは全く違う。
まるで、獣のような獰猛さだ。
でなければ豪傑として名高いボースを素手で圧倒出来るはずなどない。
彼らの様子を陰から窺っているリアムを見つけ、ブラッドリーは彼に詰め寄った。
「リアム!!・・・何だあれは」
「護国卿の指示ですよ」
「あのまま戦えば死人が出るぞ」
「それなら実験は成功ですね」
平然とそう言ったリアムの胸ぐらをブラッドリーはきつく掴んだ。
「教えろ、裏で何をしていた!?」
リアムは冷ややかに笑う。
「あなたは知らなくていいことです。今さら中途半端な正義感振りかざすのはやめて下さいよ。所詮同じ穴のムジナなんですから」
「・・・がはっ」
吐血しながらもなんとか立ち上がったボースだが、頑健なはずの彼の身体中が悲鳴を上げていた。
(こりゃ、やべぇな・・・)
足に力が入らない。
ふらつく身体を支えるのが精一杯だ。
敵は容赦なく自分にとどめを刺そうと迫ってくる。
(…すまねえ)
5対1。圧倒的不利な状況に、ボースが死を覚悟した時。
―彼女は、現れた。
凛とした背中。
燃えるような深紅の髪。
降りしきる雨の中、彼を庇うように立ちふさがっていたのは、剣を構えたリリー姫だった。
「姫様、あんた・・・なんで戻って来たんだ」
苦虫を噛み潰したような表情のボースに対して、リリーは優しく微笑んだ。
「あなたを死なせたくなかったから」
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