19.揺らぐもの、揺らがないもの

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自分の言葉に配慮が足りなかったことに気づき、リチャードはボースに詫びる。 「ボース、君を責めるつもりはなかった。すまない」 ボースの顔を覗きこみ、彼は微笑んだ。 「おそらく私が残っても、リリーを止めることは出来なかっただろう。昔から言い出したら聞かない性格なんだ」 "私、兄上の力になれるように、武術をやりたい" 女性らしいたしなみを覚えるべきと、周囲に猛反対されても、リリーの意思は揺るがなかった。 毎日毎日、基礎練習の繰り返し。 汗だくになっても、アザだらけになっても、弱音ひとつ吐かずに。 幼い頃からのたゆまぬ努力が、今の妹を形作っている。 「信頼されているんですね」 リチャードは頷いた。 「ああ。だから今は皆を、コンキスタまで無事に率いていくことを考えよう」 夜、ブラッドリーはリリー姫が軟禁されている王宮内の一室を訪れていた。 「何か話す気になりましたか?」 捕らえられた後、叔父を目の前にしてもリリー姫は頑として口を開かなかったが、軟禁されて数日経って、急に"宰相となら話してもいい"と本人が申告してきた。 そんな訳で、ジョン卿の指示を受けたブラッドリーはこの部屋にいる。 「兄上の行き先について話すとは、ひとっことも言ってないけど?」 挑戦的な目つきで、リリーはブラッドリーを見つめた。 再び軟禁されてから数日間、彼女は考えていた。 叔父の陣営の中で、最も揺さぶりをかけやすい人物が誰なのかを。 「まあ、そうだろうとは思ってましたよ」 一定の距離を置いて、ブラッドリーは腕を組んで立っている。 「でも、貴方と話したかったんだよね。私の仲間が危うく殺されかけた時のこと」 (どこまで情報持ってるのかしら?) 彼女が脅威と捉えたあの追手達。 自分を捕らえた宰相補佐官が、ボース追撃の命を下した瞬間。 彼らは急に凄まじい叫び声を上げ、次々と倒れた。 まるで何かの効力が切れたかのように― 「ブラッドリー、あの人達は叔父上に何をされたの?」 彼はまだ、無表情なまま。 「聞いても無駄ですよ。何も知らされていませんから」 その声音に不満と怒りが含まれている気がしたのは、思い過ごしだろうか。
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