37人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の言葉に配慮が足りなかったことに気づき、リチャードはボースに詫びる。
「ボース、君を責めるつもりはなかった。すまない」
ボースの顔を覗きこみ、彼は微笑んだ。
「おそらく私が残っても、リリーを止めることは出来なかっただろう。昔から言い出したら聞かない性格なんだ」
"私、兄上の力になれるように、武術をやりたい"
女性らしいたしなみを覚えるべきと、周囲に猛反対されても、リリーの意思は揺るがなかった。
毎日毎日、基礎練習の繰り返し。
汗だくになっても、アザだらけになっても、弱音ひとつ吐かずに。
幼い頃からのたゆまぬ努力が、今の妹を形作っている。
「信頼されているんですね」
リチャードは頷いた。
「ああ。だから今は皆を、コンキスタまで無事に率いていくことを考えよう」
夜、ブラッドリーはリリー姫が軟禁されている王宮内の一室を訪れていた。
「何か話す気になりましたか?」
捕らえられた後、叔父を目の前にしてもリリー姫は頑として口を開かなかったが、軟禁されて数日経って、急に"宰相となら話してもいい"と本人が申告してきた。
そんな訳で、ジョン卿の指示を受けたブラッドリーはこの部屋にいる。
「兄上の行き先について話すとは、ひとっことも言ってないけど?」
挑戦的な目つきで、リリーはブラッドリーを見つめた。
再び軟禁されてから数日間、彼女は考えていた。
叔父の陣営の中で、最も揺さぶりをかけやすい人物が誰なのかを。
「まあ、そうだろうとは思ってましたよ」
一定の距離を置いて、ブラッドリーは腕を組んで立っている。
「でも、貴方と話したかったんだよね。私の仲間が危うく殺されかけた時のこと」
(どこまで情報持ってるのかしら?)
彼女が脅威と捉えたあの追手達。
自分を捕らえた宰相補佐官が、ボース追撃の命を下した瞬間。
彼らは急に凄まじい叫び声を上げ、次々と倒れた。
まるで何かの効力が切れたかのように―
「ブラッドリー、あの人達は叔父上に何をされたの?」
彼はまだ、無表情なまま。
「聞いても無駄ですよ。何も知らされていませんから」
その声音に不満と怒りが含まれている気がしたのは、思い過ごしだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!