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"あの日"、彼女が住み慣れた屋敷を離れる前夜。
両親を埋葬した時も気丈に振る舞っていた彼女が、庭にある小さな温室で独り泣いていた。
周囲の人間に気づかれぬよう、声を殺している姿がいじらしくて、どうしても目を離すことが出来なかった。
その時から、自分は彼女を一人の女性として意識し始めたのかも知れない―
春の王都が宵闇に包まれ始める頃、ラヴェンダーの部屋のドアがノックされた。
「ウィルセイ様…!」
扉の前にいたのは花束を持ったウィルセイだった。彼女の胸は思わず高鳴る。
「急に訪ねて申し訳ない。大丈夫だったかな?」
遠慮がちにたたずむ彼をラヴェンダーは部屋の中に招き入れた。
「大丈夫です。どうぞ中へ」
花束を預かり花瓶に活けながら彼女は口を開いた。
「素敵…ありがとうございます」
目線を上げお礼を言うと、ウィルセイはほっとしたように微笑んだ。
「喜んでもらえて良かった。しばらく来られなかったけど変わりはないか?」
「はい、独りでもなんとかやっていけるようになりました。そういえば…今日はブラッドリー様とご一緒ではないんですね。お二人ともお忙しいんでしょう?」
「ブラッドリーも元気だ。ただお互い多忙で予定が合わなくてね。私も明日から3週間地方へ出かけるから、この後屋敷に戻るよ」
「まあ…そんなお忙しい中来ていただんですね。せめて紅茶でもお入れしますから…」
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