37人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
団体戦の予行演習中も、ウィルセイは今朝の悪夢を払拭しようと必死だった。
台本通りに攻撃と防御を繰り返すうち、ブラッドリーとの思い出が脳裏に浮かんでくる。
二人で稽古にいそしんだ日々。
ブラッドリーの笑顔。
(消えろ…)
もうあの頃には戻れないとわかっているのに。
(消えろ!!)
『それでも俺と戦えないお前の甘さが、皆を犠牲にするんだよ』
見たくなければ、目を瞑ればいい。
聞きたくなければ、耳を塞げばいい。
何としてでも、戦わなければ―
(何やってやがる!!)
エドは舌打ちした。
今のウィルは、見ていて痛々しい。
仲間達と真剣勝負するのが楽しい。
練習を重ね、出来ることが増えていくのが嬉しい。
普段の彼から伝わっていたはずの、そんな純粋な感情が欠片も感じられない。
「演習をやめろ!!」
エドは大声で予行演習を止め、フィールド内に入っていった。
「ウィル、今日の戦闘は出場停止だ。今すぐ演習から抜けろ。俺が代わりに入る」
有無を言わせぬエドの口調に、周囲の戦士達はみな沈黙している。
今は何としてでも戦いたい。
戦っていれば、忘れられる気がする。
考えたくないことを、全て。
「お願いです、外さないで下さい!今は一戦でも多く戦いたいんです」
なおも食い下がるウィルセイを、エドは一喝した。
「辛気くさい顔して戦って、お客様を楽しませられると思うか!?俺たちは戦いで観客を楽しませるプロだぞ。今の自分の表情を鏡で見てみろ!!」
エドの指摘に、ウィルセイはハッとする。
感情ばかりに目を向けて、今の今まで戦士(ファイター)としての心得をすっかり失念していた。
そんな自分が恥ずかしく思えて、彼は押し黙ってしまった。
エドはぽん、とウィルセイの肩を叩き、耳許で囁く。
「個人の感情を闘技場に持ち込むな。頭を冷やしてこい」
厳しい言葉の裏にある、エドの思いやりが伝わってきて。
ウィルセイは素直な気持ちで頷き、フィールドから出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!