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その夜、ブラッドリーは再びリリーがいる部屋を訪れていた。
(何をやってるんだ、俺は)
正直なところ、ジョン卿のために彼女から情報を聞き出す気は全くなかった。
"少し、自分に似ている気がしたからかな"
その言葉が、ずっと気になって仕方なかったから、ここへ来たのだと思う。
「貴方から来てくれるなんて、どういう風の吹き回し?」
いつもと変わらない強気な笑顔。
彼女の眼差しに、時おり吸い込まれそうになるのはなぜだろう。
「なぜ俺と少し似ていると思ったのか、その理由を聞きたかったから来た」
ブラッドリーの単刀直入な言葉に、リリーは柔和な笑顔を浮かべる。
自分は強気な態度という鎧を。
彼は人当たりのよい笑顔という鎧を。
見えない鎧をいつでも身につけて、自分自身を守るタイプだと感じていた。
少し彼が心を開いてくれたのなら、自分も素直になってみようか。
打算など抜きにして。
「自分の存在価値を証明したくて必死になっているところが、少し似ている気がしたの」
今まで誰にも明かさなかった本音を、リリーは初めて語ろうとしている。
そう、ブラッドリーは感じた。
「幼い頃ね、女の私が何をしても、父や周りの人間は振り向いてくれない。ずっとそう思ってた」
"リリーはがんばり屋さんだな"
いつも自分を認めてくれたのは、他でもない兄のリチャードだった。
「兄上の役に立ちたかったのもあるけど…自分だって剣も弓も、男性に負けないくらい上手くなれるって証明したくて、毎日練習したわ」
ほんの少しでも、父に振り向いて欲しかったから。
兄に褒めてもらいたかったから。
(そうだったのか…)
自分自身を認めてもらえない孤独を。
愛されていると実感出来ない寂しさを。
自らの努力で埋めようと必死にあがいてきた一人の少女が、ここにいる。
気づけばブラッドリーは口を開いていた。
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